美空ひばりさん
私が美空ひばりさんの歌を聴いて感激したのは、私が8歳の6月の事。
学校から帰ってくると、テレビやラジオではひばりさんの追悼番組で、どのチャンネルでも美空ひばりさんが歌っていた。
当時、私は日本舞踊、お三味線、端唄、長唄、小唄と邦楽ばかりお稽古をしている、変わった子だったので、下校後は毎日どれかのお稽古にいくのが何よりの楽しみだった。
そんな時、ひばりさんが題名のない音楽会の再放送で和服で三味線・本條秀太郎社中、鳴物・堅田喜佐久社中をしたがえて、小唄・「吉三節分」を歌っている姿をみて、その歌唱力の凄さに子供ながら強い衝撃をうけた。
小唄が終わるとドレスに着替え、オーケストラをバックに「スター・ダスト」を歌い、その後シャンソンの「人の気も知らないで」を歌い、最後にはプッチーニのオペラ「トスカ」のアリア「歌に生き、愛に生き」まで歌った。
その幅の広い歌唱力に、私な度肝を抜かされ、慌ててレコード屋さんに走り、ひばりさんのレコードとナット・キング・コールのレコード、そしてマリアカラスのアリア集を買ってきた。
子供らしくないと非難されながらも、私にとっては必要でとても興味深い音楽だった。
朝から晩までそれらの音楽を聞き、夜中は音が漏れないようにと押し入れに潜り込んで、レコードを聴いた。
今思えばあの事がなかったら、私は邦楽以外の世界中の美しい音楽に触れることはなかったでしょう。
私にとって音楽の美しさを与えてくれた師は美空ひばりさんである。
どんなに苦しい時代も歌に命がけだった美空ひばりさんの姿は、私に大きな力を与えてくれる。
私はシャンソン歌手となった今も袖から舞台に上がるときは美空ひばりさんに手をあわせる。
これはもう幼い頃からの事なのだが、手を合わせた瞬間から舞台が怖くなくなる。
きっとひばりさんが私の背中をポンと叩いてくれているのだと思わずにはいられない。
「よし!頑張っておいで!お客様を楽しませておいで!」とひばりさんが言って下さるよう。
それはシャンソンを歌っている今でも。
不思議な事はいつも舞台でおこる…。

