プリンの王様

フランス菓子の本(婦人画報社)より
プリンの王様礼賛
私の生涯における最も好きなデザート(ケーキ)は、今までもそしてこれからも、大谷長吉氏の「プリンの王様」です。
大谷氏は父の幼馴染としてよくお目にかかりましたが、上記の写真が載っている婦人画報社の名著「フランス菓子の本」は、1972年2月25日に同氏が父にサイン入りで贈ってくれました。その時私はすぐ傍におりましたが、達筆ぶりに驚いたことを覚えています。
大谷さんは日本のフランス料理の総本山、横浜のニューグランドのベーカーチーフとして活躍。その後独立して歴史に残る洋菓子店を神田に開きましたが、屋号に同ニューグランドのシェフとして、その後の日本のフランス料理に多大な功績を残したS.Weil 氏の名前を拝し、「エスワイル」としました。子供の頃は単なる外国語の店名と思っていたのですが、今更ながら師匠の恩を大切にした素晴らしい名称だと感心してしまいます。
我が美食歴のスタートが大谷さんのアイスクリームであることは既にご披露しましたが、よくお邪魔した神田のお店に入る度に、良心的な価格はいうに及ばず、本当に「初心忘れるべからず」という言葉がぴったりの、超一流の味を誇る、素朴なお菓子の数々に、感激を新にしていました。
毎回申し上げる様に、料理(ケーキ)の奥深さは、それを作った人の人生そのものともいえます。現在は何不自由なく世界の情報や食材を手に入れらますが、戦時中材料の無い中で、何とかしてお客様に美味しい料理(ケーキ)を召し上がって頂こうとした、先達の苦労と努力を、私は忘れることが出来ません。
今は一流レストランとして知られるお店でも、戦後間もなくはガスが十分に使えず、ヒチリンで調理した話を聞かされた時は胸が熱くなる思いでした。
この洋菓子の本は、いわゆる古典の傑作だと思いますが、お菓子の名称がとても面白く、この「プリンの王様」もそうですが、「王妃の船」「修道女」「愛の泉」「ほほえみ」など、夢のあるものばかりで、ワクワクしてしまいます。
この本を父と共に頂戴したのが35年前ですが、同書の短いながら日本の洋菓子の歴史が見事に語られている前書きの最後の部分に、大谷氏はこのように書いています。・・・菓子というものは、数多く手がけて、愛情をこめて作るとおいしい菓子が出来る。私など50年菓子を作っている。しかしまだまだ駄目だ。本当の菓子を作りたい。・・・
